続・咳喘息について ― 吸入薬で治ったら咳喘息? ―
続・咳喘息について ― 吸入薬で治ったら咳喘息? ―
続・咳喘息について
― 吸入薬で治ったら咳喘息? ―
「以前、咳喘息と言われたことがあります」
当院にも、このようにお話しされる患者さんがたくさん来られます。
詳しくお聞きすると、「風邪のあとに咳が長引いて、吸入薬を処方されたら治りました」という方も少なくありません。もちろん、本当に咳喘息だったのかもしれません。
でも、実はここに、咳喘息の診断の難しさがあります。
風邪のあとの咳と、咳喘息
風邪が治ったのに、咳だけがいつまでも続くことがあります。これは「感染後咳嗽(感冒後咳嗽)」と呼ばれ、感染によって気道が敏感になり、風邪そのものが治ってからも咳が続く状態です。多くの場合、時間とともに自然に改善していきます。
一方、咳喘息も風邪をきっかけに症状が現れることがあり、特に初めて発症した場合や、風邪をひいて間もない時期には、両者の区別が難しいことがあります。当院でも、日々の診療で悩むことの多い問題です。
吸入薬で治ったから、咳喘息?
咳喘息の診断では、喘息治療によって咳が改善するかどうかが、重要な判断材料になります。例えば、風邪のあとに咳が続き、吸入薬を使い始めて1〜2週間で良くなったとします。これは吸入薬の効果かもしれません。
でも、お薬を使わなくても、ちょうど同じ時期に自然に治っていた可能性も十分あります。つまり、「吸入薬で治った」という一度の経験だけでは、咳喘息と断定できないことがあります。
大切なのは、治療効果の「再現性」
最近、喘息の診断では、治療効果の「再現性」という考え方が重視されています。日本喘息学会の『喘息診療実践ガイドライン』でも、喘鳴などの明らかな所見がない場合には、治療による改善を一度確認するだけでなく、必要に応じて、その効果が再び確認できるかをみる考え方が示されています。
例えば、風邪をひくたびに同じような咳が長引き、喘息治療によって繰り返し改善する。あるいは、風邪をひいていない時期にも夜間や明け方の咳を繰り返す。こうした経過は、咳喘息を疑う大切な手がかりになります。もちろん、初めての発症でも咳喘息であることはありますし、診断のためにわざわざ症状の再発を待つのもどうかと思います。
一度の治療効果だけでなく、これまでの経過や検査結果、その後の症状も合わせて判断することが大切です。
以前のコラムで、私は「喘息は不整脈に少し似ています」とお話ししました。症状のないときには、診察や検査で異常が見つからないことがあるからです。
そのため当院では、これまでの経過をお聞きするようにしています。
「以前にも同じような咳がありましたか?」
「夜中や明け方に咳が強くなりますか?」
「風邪をひいていない時期にも咳が出ますか?」
こうした質問が、診断の重要な手がかりになることがあります。
また、呼気NO(FeNO)検査も参考になります。吐く息に含まれる一酸化窒素を測定し、気道に存在するのアレルギー炎症を調べる検査です。必要に応じて呼吸機能検査や胸部レントゲンなども組み合わせ、ほかの病気の可能性も考えながら診断しています。
「咳喘息」と診断することの意味
咳喘息は、単に咳が長引くだけの病気ではありません。過去の研究では、吸入ステロイドによる治療を受けていない咳喘息患者さんの約30〜40%が、経過中に典型的な喘息へ移行したと報告されています。
本当に咳喘息であれば、適切な治療を行い、再発や悪化を防ぐことが大切です。また、診断がはっきりしていれば、次に風邪をひいて症状が悪化したときにも、適切な喘息治療を始めやすくなります。
一方で、実際には感染後咳嗽だった方が、ずっと「自分は咳喘息だ」と思い込んで、風邪のたびに必ずしも必要ではない吸入治療を繰り返すことも避けたいものです。
咳喘息と感染後咳嗽の区別は決して簡単ではありません。一度の診察で答えが出ないこともありますので、患者さんと一緒にその後の経過を確認しながら、より確かな診断につなげていきたいと思っています。
風邪が治ったのに咳だけが続く方、以前に咳喘息と言われたけれど、本当にそうなのか気になる方は、どうぞご相談ください。
参考文献
1. 日本喘息学会.『喘息診療実践ガイドライン2024(PGAM2024)』.協和企画,2024.
2. Tamaoki J, et al. Practical Guidelines for Asthma Management (PGAM): Digest edition. Respir Investig. 2025;63:405–421.
3. 日本呼吸器学会.『咳嗽・喀痰の診療ガイドライン第2版2025』.メディカルレビュー社,2025.
4. Liang K, et al. Postinfectious cough in adults. CMAJ. 2024;196.
5. Niimi A. Narrative Review: how long should patients with cough variant asthma or non-asthmatic eosinophilic bronchitis be treated? J Thorac Dis. 2021;13:3197–3214.
京都市北区紫竹のたけむら内科・呼吸器内科クリニックでは、咳喘息や長引く咳の診断・治療を行っています。
文責:竹村佳純
たけむら内科・呼吸器内科クリニック 院長
呼吸器内科専門医・日本喘息学会喘息専門医
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