喘息・アレルギー性疾患
喘息・アレルギー性疾患
~呼吸と健康のコラム~
今回は、「呼気NO(FeNO)が低かったら、喘息ではないのでしょうか?」
というご質問を取り上げます。
当院では、長引く咳の患者さんに対して、咳と喀痰のガイドライン(2025年)に沿って、問診や胸部レントゲン、肺機能検査などを組み合わせながら、咳の原因をご相談しています。その中で、喘息の診断補助として行う検査の一つが、呼気NO(FeNO)検査です。
呼気NO検査は、吐いた息に含まれる一酸化窒素(NO)の濃度を測定する検査です。
喘息では気道に好酸球性の炎症を伴うことが多く、そのような好酸球性炎症を反映して呼気NOが高くなります。
では、呼気NOが低ければ喘息ではないのでしょうか?
答えは「いいえ」です。
すでに触れたとおり、喘息にはさまざまな要素、炎症のタイプがあって、好酸球性の炎症が目立たない喘息が一定数あるからです。
そのため、呼気NOが低いからといって、喘息を否定することはできません。
「2022年に報告された前向き多施設研究では、FeNOが50 ppbを超える場合、喘息診断に対する特異度は99%、陽性的中率は95%と高い一方、感度は24%にとどまりました。つまり、FeNOが高い場合は喘息を強く支持(rule-in)しますが、FeNOが低いからといって喘息を否定(rule-out)することはできないと著者らは締めくくっています。」
ただし、吸入ステロイド薬は好酸球性炎症に奏功するので、治療面でFeNOが低いと吸入ステロイド薬の効果が現れにくい場合があります。また、FeNOが高いと吸入ステロイド薬の効果も期待しやすくなります。 つまり、FeNOは、「喘息か、喘息でないか」を単独で決める検査ではなく、気道にどのような炎症が存在するかを調べる重要な検査といえます。
また、喘息のタイプ(フェノタイプ)は、最初からずっと同じではありません。成人喘息患者を1年間追跡した研究では、フェノタイプが一貫していたのは47%にとどまり、フェノタイプは変動しやすいことが示されています。
以上から、今回のテーマ、
「呼気NO(FeNO)が低かったら、喘息ではないのでしょうか?」の答えは、
呼気NOが低くても、喘息を否定することはできません。
ただし、FeNOが低い場合には、吸入ステロイド薬が効きにくい可能性がある。
ということになります。

参考文献
1. Dweik RA, et al. An Official ATS Clinical Practice Guideline: Interpretation of Exhaled Nitric Oxide Levels (FeNO) for Clinical Applications. Am J Respir Crit Care Med. 2011;184:602-615.
2. Schneider A, Brunn B, Hapfelmeier A, et al. Diagnostic accuracy of FeNO in asthma and predictive value for inhaled corticosteroid responsiveness: A prospective, multicentre study. eClinicalMedicine. 2022;50:101533.
3. Smith AD, Cowan JO, Filsell S, et al. Exhaled nitric oxide: a predictor of steroid response. Am J Respir Crit Care Med. 2005;172:453-459.
4. Global Initiative for Asthma (GINA). Global Strategy for Asthma Management and Prevention.
5. Zaihra T, et al. BMC Pulm Med. 2016;16:74.
京都市北区紫竹のたけむら内科・呼吸器内科クリニックでは長引く咳、喘息・咳喘息の診断と治療をおこなっています。
喘息の季節っていつ?
「春は花粉症の季節」というイメージがありますが、喘息患者さんにとって特に注意が必要なのは秋といわれています。
私が研修医だった頃、朝晩が肌寒くなり始める秋になると、喘息発作で救急受診される患者さんが増え、点滴やネブライザー治療を受ける姿をよく見かけました。
このように喘息には季節による変動があり、症状が出やすい時期と比較的落ち着く時期があります。

スギやヒノキなどの花粉が飛散する季節です。アレルギー体質の方では、咳や喘鳴(ゼーゼーする呼吸)が悪化することがあります。

高温多湿の環境ではダニやカビが増えやすく、アレルゲンへの曝露が増加します。また、冷房による急激な温度変化も気道への刺激となります。

秋は喘息患者さんにとって最も注意が必要な季節です。
欧米では9月の学校再開後に喘息発作が急増することが知られており、「September epidemic(9月喘息流行)」と呼ばれています。その背景にはライノウイルス感染、秋のアレルゲン曝露、気温変化などが関与すると報告されています。
日本でも、台風や気圧変化、朝晩の気温差に加え、ブタクサやヨモギなどの秋の花粉、夏に増殖したダニ由来アレルゲン、さらには風邪の流行も重なります。
実際に「台風が近づくと調子が悪くなるのが分かります」とおっしゃる患者さんもおられます。
「気道過敏性の亢進」が喘息の病態そのものなので、さまざまな刺激が存在する秋は喘息にとって試練の季節といえます。

空気が乾燥し、インフルエンザや風邪などの感染症が増える季節です。感染症は喘息発作の大きな誘因となるため注意が必要です。
季節の変わり目の咳にご注意を
喘息は一年を通して存在する病気ですが、季節ごとに異なる要因によって症状が変化します。
このような症状がある場合は、喘息や咳喘息が隠れている可能性があります。
近年は吸入ステロイド薬を中心とした治療の普及により、喘息発作による救急受診は以前より大きく減少しました。
一方で、強い発作で受診される患者さんは、治療を中断していたり、吸入薬を十分に使用できていなかったりする方が少なくありません。
喘息は適切な治療を継続することで良好なコントロールが期待できる病気です。
季節の変わり目に咳や息苦しさを繰り返す方は、お気軽に呼吸器内科へご相談ください。

【参考文献】
Khot A, et al. Seasonal patterns of asthma: A clue to etiology. Environmental Research. 1984.
Johnston NW, et al. The September epidemic of asthma exacerbations in children. J Allergy Clin Immunol. 2005.
京都市北区のたけむら内科・呼吸器内科クリニックでは長引く咳、気管支喘息の診断と治療を行っています。
喘息治療の中心は、現在も変わらず吸入ステロイド薬(ICS)による気道炎症を抑える治療です。気道炎症を抑えることは、喘息の原因そのものの治療であり、増悪(発作)の予防につながります。 一方、気管支拡張薬は、たとえ長時間作用型であっても、単独では「増悪」そのものを抑える効果は限定的で、あくまで「症状を和らげる」補助的な役割と考えられています。
そのため従来の喘息治療では、「症状が残る場合にはICSを高用量へ増量する」という”ステップアップ治療”が基本とされてきました。実際、ガイドラインにも段階的に治療を強化していく体系的で”きれいな”ステップ法が示されています。

(一般社団法人日本アレルギー学会「喘息予防・管理ガイドライン2024」より)
しかし近年、喘息治療は少しずつ変化しています。現在注目されているのは、「単純に吸入ステロイドを増量する」よりも、作用機序の異なる薬剤を組み合わせて追加するという考え方です。
特に中等症以上の喘息では、ICSを高用量にしてゆくよりも、長時間作用性β₂刺激薬(LABA)や長時間作用性抗コリン薬(LAMA)を追加した、いわゆる「トリプル製剤(ICS/LABA/LAMA)」が優れていると考えられています。代表的な薬剤としては、テリルジー® や エナジア® などがあります。
実際、CAPTAIN試験やIRIDIUM試験では、単純にICSを増量する群と比較して、ICSはそのままでLAMAを併用したトリプル製剤群のほうが肺機能改善や増悪抑制に優れていることが報告されています。
日常臨床でも「ICSをステップアップしても効果が頭打ちになる」という印象があって、ステロイドへの反応の限界にさしかかると、ICS増量の効果が乏しいと感じる事が少なくありません。
さらに、難治重症喘息に対しては生物学的製剤(抗IgE抗体、抗IL-5抗体、抗IL-4/13抗体薬、抗TSLP抗体など)が広く使用されるようになってきました。
このように治療選択肢が増えたおかげで、最近の喘息診療は患者さんの病態(フェノタイプ)に応じて治療を選択する「個別化医療」の時代になってきたと考えられています。
当院でも個別、病状に応じた治療がご提案できればと考えています。

参考文献
・CAPTAIN試験:Efficacy and safety of once-daily single-inhaler triple therapy (FF/UMEC/VI) versus FF/VI in patients with inadequately controlled asthma (CAPTAIN): a double-blind, randomised, phase 3A trial. Lancet Respir Med. 2021.
・IRIDIUM試験:Once-daily, single-inhaler mometasone-indacaterol-glycopyrronium versus mometasone-indacaterol or twice-daily fluticasone-salmeterol in patients with inadequately controlled asthma (IRIDIUM): a randomised, double-blind, controlled phase 3 study. Lancet Respir Med. 2020.
京都市北山紫竹のたけむら内科・呼吸器内科クリニックでは喘息に対する吸入治療、難治重症喘息に対する生物学的製剤治療も行います。
喘息について、少しお話ししたいと思います。
まずは身近な「咳喘息」のお話と、その後に最近の治療の潮流について触れたいとおもいます。
「咳喘息」について
「咳喘息」という言葉を耳にされたことがある方も多いと思います。また、医療機関でそう診断された方も少なくないと思います。 喘息は成人の10人に1人が経験する身近な疾患です。
夜間や早朝に咳が出る、会話や運動をきっかけに咳き込む、季節の変わり目に悪化する—–このような症状は、典型的な「咳喘息」を疑う症状です。
一般的に喘息は、咳とともに「ゼーゼー」「ヒューヒュー」といった気管の狭窄音、喘鳴(ぜんめい)や息苦しさを伴う発作があります。一方、咳喘息では、このような喘鳴や強い呼吸苦は目立たず、「咳だけ」が長く続くことが特徴です。
そのため、診察時に喘鳴が確認できれば喘息の診断はつきやすいですが、聴診所見がはっきりしない場合は咳喘息を「疑う」ことになります。私の子供も喘息持ちですが、症状は時間帯や状況によって変動し、咳とともに喘鳴があっても、落ち着くと分からなくなります。
そのため、私は患者さんには「喘息は不整脈に少し似ています」とお話しすることがあります。不整脈も、症状のない時に心電図を取っても分からないことがあります。同じように、喘息もおさまっていると分かりにくい病気です。ですが、“発作が起こりやすい状態”かを検査で知ることはできます。喘息の場合は呼気NO(FeNO)検査や呼吸機能検査などが、その「らしさ」を知る手がかりになります。
また、咳喘息は「咳だけだから大丈夫」というわけではありません。咳喘息の患者さんの約30〜40%は、経過中に典型的な喘息へ移行すると報告されています。さらに、吸入ステロイド治療によって、この移行リスクを減らせる可能性も示されています。
咳喘息の治療は、喘息と同様に吸入ステロイド薬が中心となります。単に咳を抑えるだけではなく、気道の炎症そのものを改善することで、症状の悪化や再発を防ぐことが期待されます。
2〜3週間以上咳が続く場合は咳喘息、喘息なのかもしれません。夜間・早朝に咳が強い場合は、一度ご相談ください。
少し長くなりましたので、最近の喘息治療の潮流については、次回ご紹介したいと思います。
参考文献
京都市北区紫竹のたけむら内科・呼吸器内科クリニックでは咳喘息の診断と治療を行っています。
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